山村若三のブログ。メモ代わりに気が向いたときに思いついたことを記録します。
楳茂都陸平先生が昭和33年に書かれた「舞踊への招待」という本がある。
40年近く前、大学の図書館で偶然見つけて拾い読みしたところがずっと記憶に残っていて
古書店を探し回り、1年前にようやく手に入れた。
この中に楳茂都流の奥義について言及した「三つの大事」という箇所がある。
「三つの大事」は楳茂都流で一子相伝の口伝とされ、初代から三代目(陸平先生)まで
門外不出の厳しい秘事となっていたのを、陸平先生が舞踊技巧の基礎をわかりやすく
説明するために、すべての弟子に公開したという。
三つの中に「六方の備」というのがある。六方とは舞台の四隅と正面と裏のことで、
六方に身体を沿わせる空間原理のことだ。
自分は大学に入ると母に連れられて大阪の家元の稽古場に伺うようになったが、ちょうど
その頃糸先生が京都の陸平先生のところにお稽古に通われていて、自分は糸先生から
このことを教わった。
対角線に身体を向けると客席のどの場所からでもきれいな姿に見えて、日舞に限らず
ディスコ(懐かしい!)で踊るときにもこれが役に立つと言われた。
「こんな簡単なことがどうして奥義なのだろう」と当時は思ったが、寸分違わずこれを
実践するには相応の稽古を積む必要があるし、これを独学で発見し修得しようとするなら
10年とか20年とかかかるかもしれない。
奥義と言わずとも、芸事のコツというのはわかってしまえばシンプルなもので、師匠に
恵まれて本人にその気があれば回り道しないで効率よく身につけることができると思う。
何か新しいことを習得しようとするとき、最初はとにかく始めから終わりまで
何とかやってみるわけで、
踊りだったら自分で着物を着て、簡単な短い曲を一人で最後まで踊ってみるとか、
三味線だったら糸を張って膝の上に乗せて調子を合わせてドントンテンと弾くとか、
唄だったら大まかに節回しを覚えて三味線に合わせて大きな声で最後まで唄うとか、
これを何年かやるうちにできることが少しずつ増えてきて、
逆に今の自分がうまくできないことが見えてくる。
そしたらそこだけ取り出して、集中的に練習する。
部分的な練習は上達の度合いが自分で実感できてやっていて楽しい。
ある程度イメージができたら最初から最後まで通しで稽古する。
ずいぶん昔(数十年前?)プロゴルファーの金井清一氏がテレビで「分習と全習」と
いう言葉を使ってゴルフの練習方法を解説していた。
スウィングをパーツに分けて自分が苦手な部分の動きを繰り返すことと、実戦を想定して
全部を通しで行うこと、この両方が必要だと言っていた。
全く関係ないが、金井清一氏はビールと馬刺しが大好きだというのを当時のゴルフ雑誌で
読んだのを覚えている。
自分はビールには鳥の唐揚げと思っていたから、晩酌に馬刺しを食べるなんて
プロゴルファーは儲かるんだなあと思いつつ、以来居酒屋に行って馬刺しがあれば
注文するようになった。
自分へのちょっとしたご褒美を準備しておくと稽古の励みになる。
長唄みたいに一定の拍子で演奏される曲はともかく、地唄筝曲とかで感情表現が
求められたりすると、ついその気になって曲に埋没するというか、マイペースで
気持ちよく演ってしまいがちだが、結果ケジメがなくなって観る側が辛い舞台に
なる。
数十年も前、大阪に稽古に行き始めたころは「何もするな」とよく言われた。
基本に忠実に、踊り尻をハッキリと、きちっと舞うだけ。
あとは曲と振りが助けてくれると信じて、余計なことは一切しない。
これがなかなかできない。やりきる勇気というか強い信念がないと難しい。
役者みたいに一か月間、毎日舞台で同じ曲を舞わせてもらえたら、そのうち
何も考えなくなって、余分な動きはそぎ落とされて随分とあか抜けた芸に
なるだろうに、と思ったりする。
先日の長唄のゆかた会では「外記猿」を弾いて、唄は「靭猿」「綱館」の三枚目に乗せて
もらいました。
普段お芝居などでプロとして唄っている先生の隣に座らせていただいたお陰で、いろんな
発見がありましたが、とにかく隣の声量が半端なく、負けじとツレで大声を出そうと頑張り
すぎてノドを痛めてしまいました。
唄の練習はこれまでちゃんとしてこなかったので反省。改めて発声練習から始めようと思う。
三味線の課題は右手の使い方。いい音を出そうとしてどうしても力が入り勝ちになる。
とにかく力を抜いて撥先を細かく柔らかく使えるよう、次回までに練習します。