以前に書いたように、他人は本当のことを言ってくれないから、踊った本人に向かって
「すばらしかったですよ」などと言うのは、ほぼオベンチャラだと思って間違いない。
褒められても本気にしてはいけない。自分は何でもできる、などとは決して思ってはいけない。
「自分は上手い」と思うことと、自信を持つことは違うぞ。
ずっとそう言われてきました。
常の稽古の積み重ねが自信につながるというのは、確かにそうだろうと思うのだが、
稽古は果てしなく、いったいいつになったら理想の精神状態で舞台に立つことが
できるのか考えてしまう。
若いころは根拠のない自信があって怖いもの知らずだが、明らかに勘違いしているわけで、
いろんなことが少しずつわかってくると、そんな自信はなくなってしまう。
一方、芸が人に見せるものである以上、舞台には遊び心が求められる。
自分が楽しくなければ観客は楽しめません。
それでも、自分は必死でやっているのに、傍からは落ち着いて楽しんでやっているように
見えることがある。
それが常の稽古の成果。
三十数年前に名前をいただいたとき、四世宗家から一言、「常の稽古をしっかりな」
と言われたのを思い出す。